■病院チェーンの展開が本格化
病院経営のチェーン化は、医療経営が右肩上りの成長の時代にあって、また医師の資格者以外は経営ができないといった状況において、ごく限られた人達によってのみ進められてきたが、多くの医師達は技術者ゆえに経営にうといため、大きな展開には至っていない。
しかしながら、ここ数年厳しい医療環境が続く状況に加え、規制緩和の声が大きくなりつつあるなかで、民間企業は緩和撤廃を見込んで水面下で着々とチェーン化に向けて手を打ち出ししている。
ここでチェーンシステムについて解説しよう。
チェーンとは連鎖店と訳され、米国において小売店の合理化と多店舗展開の手法として開発された。それが我が国においては最初スーパーマーケットで取り入れられ、その後順時飲食店やその他のサービス業に取り入れられ今日の発展に至っている。
チェーンシステムの形態は次のように分類される。
▼単一資本形態−レギュラー・チェーン
(正規連鎖店)
▼独立資本形態−ボランタリーチェ−ン(VC)
(任意連鎖店・共業連鎖店)
▼フランチャイズチェーン(FC)
(本拠地占有権連鎖店)
まずレギュラーチェーンは、単一資本の一つの会社が所有するいわゆる直営店で、多数の店舗を本部が直接的に管理・運営するシステムである。病院経営では一番多いシステムである。
次にボランタリーチェーンは、複数の小売店がそれぞれ独立性を保ちながら、事業活動の共同化、共同施設の職場や運営をはかるもので医療では共同クリニックなどにみられる。
フランチャイズチェーンは本部企業が仕入れ、製造、販売促進、宣伝など経営の指導、管理を行い、各店はフランチャイジーとして指導料としてロイヤリティーフィーを払うシステムである。
今日、わが国では医師の経営による徳洲会(全国34病院)や中村3兄弟 の中央医科(CMS)グループ、板橋中央、戸田中央、上尾中央の各グループ(全国55病院) の大規模なものから、十全会や高野会ほか中小グループによるチェーン展開がはかられているほか、株式会社がバックのセコムやダイエーなども参加している。そして、ごく最近では、いよいよ米国の医療経営チェーンのTRC
(トータルリーナルケア:世界6カ国、564ヶ所の医療機関を所有)が我が国への進出を表明した。
チェーン展開の動機には第一に規模の拡大による人・物・金・情報の経営資源の効率的活用と顧客の拡大、第二にマーケットの絞り込みと徹底した合理化による医業そのものからの利益の極大化、第三に民間企業の本業と関連づけ、本業の補管的役割や相乗効果をねらうものなど、さまざまである。
■消費者にとってよいか悪いかがチェーン展開の決め手
消費者にとって果たしてどのような影響をもたらすであろうか。
まず長所としては、第一に経営の競争激化に拍車をかけ、経営努力の刺激による活性化がなされ、第二に規模に拡大によって知名度のアップ、第三に仕入れの効率化によるコスト削減、人材の流動化や教育のシステム化、研究開発や先行投資の余力の捻出が容易となる、第四にシステム化により技術やサービスの平準化や均質化により地域格差が是正できる。
反面、短所として第一に組織の官僚化や人材の歯車化や部品化が起こりやすい。第二には巨大化すれば市場の寡占化となり売手の論理に陥り易くなる。第三として利益重視のため患者の選別や過剰検査、投薬、過少医療に陥りやすくなる―など両刃の剣ともなる可能性がある。
ちなみに、徳洲会やCMSにおいては第一のパターンであり、病院から老健はては診療所までダボハゼ的に拡大するところである。また高野会の循環器チェーン、TRCの透析を中心に病院経営の手法やノウハウの提供など経営力を駆使するところは第二のパターンであり、セコムの自社顧客への安全や安心を補強する医療や在宅サービスの提供と安全システム商品の活用、ダイエーの自社小売商品やその他のサービス商品のハケ口としての活用は第三のパターンとして考えられる。先回述べた業種から業態へ多角化から多様化への移行はチェーン展開する場合必須の手法となる。
地域医療計画において守られたかにみえる病院経営も、いわゆる経営力のないところは、チェーン展開の波に飲み込まれると覚悟せねばならない。また我が世の春を謳歌する、増大し続ける診療所といえども例外とはいえない時代が間もなく到来するであろう。
次回は自院のチェーン化への対応策について述べよう。 (1999年8月号掲載)
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