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塾長
野口哲英

第4回

 

多角化から多様化へ
ひと昔前の物不足から物余りの時代を迎えた今、消費者は商品がどんなに良かろうが必要でない物は買わない。それでは必要 性とはどのような観点からとらえるべきで あろうか。そのヒントは消費者の価値観の多様化にある。 
たとえぼ男性の背広ひとつをとってみよ う。ひと頃、価格破壊でスーツ上下が1〜2万円で青山やアオキで売り出された。しかし思ったようには売れず、安売りをやめて しまった。これは消費者心理が安かろう悪かろうといったイメージで購入をやめたのではなく、そのような安い物を着ることに より職場やお客の前で惨めな感覚に陥るこ とに抵抗を感じたからにほかならない。
ひと昔前に百円化粧品として地婦連ブランドのチフレが廃れたことにも通じる。背広や化 粧品は、機能や効用もさることながら、ステイタスやイメージを売っているのである。
また、消費者の価値観が多様化したから といって多機能の付加価値を付ければ売れるというものではない。最近乗用車やオーディオ製品で、単純機能が求められている ことにみてとれる。
いずれにしても、消費者のニーズは時とともに常に変化するものであり、今日までの単純な機能を売る業種から多様なニーズに対応できる複合商品を売る業態が求められている。今日発展している企業の代表的なものを挙げてみると、
セブンイレブン▽日用品(食品、文具、書籍、雑貨)を小さな店舗でバイトを用いて24時間商品提供をしている。すなわち 「便利さ」を売っている。
セコム▽以前はガードマンによる警備保障を売っていたが、今日では住宅やビルの防犯や防災、さらには病人の救急面や画像診断等の情報管理を行っている。「安全」 を売っている。
カネボウ▽昔は鐘ケ淵化学として繊維を売っていたが、その化学原料を加工して化粧品の製造販売に乗り出した。そして、外見を美しく化けるための化粧品を売ることから、身体の内部の健康から外部の美づくり、さらには心の美までも文化教養面からサポートする。すなわち「人生づくりにおける美しさ」を売っている。
 
医療の多様化の実践

今日まで医療を提供する側の力点は、治療が中心であった。そこでは治すことが中心で、直らなければ敗北といった医療技術至上主義の考えで占められ、慢性期医療や老人医療は多くのドクターにより興味の対象から敬遠されてきた。今や医療機関も淘汰の時代。売り手側の論理から買い手側の論理へと他産業がいち早く移行してきたように、今後は積極的に消費者ニーズの多様化に応じて医療も多様化をめざすことが勝ち残りの前提条件となろう。
それにはドクター自ら西洋医学に基づいた治療技術のみならず、東洋医学や精神医学、社会常識も含め、医の中心的リーダーとして幅広い修行を行い、全人的人格を養うことが必要不可欠となろう。 さらに病院経営においてはトップ自ら実践し、医局やコ・メディカルにまで教育にカを入れるところが医療界のリーダーとして繁栄するであろう。
医療の中心、すなわち「医」の商品としての本質は安心感である。この安心感をどのように多様に展開していくかが医療の多様化である。多様化は当然のことながら消費者の視点、すなわち消費者が医療に何を求めているのかを消費者の身になって肌で感じ取ることが大切である。消費者ニーズを得るために産業分類を役人や学者が行う業種(農、漁、林、製造、サービス業等)としてみるのではなく医療経営の観点から分類すれば、人の生老病死という一生にかかわる産業として見るととらえやすい。すなわち医療機関は今日もっぱら病の産業として見られている。それを死の産業から幸せの豊まで関わることを考えてみよう。
医と死 業種としてはホスピスや終末期。業態としてはリビングウイ ル業。
医と病気 業種としては急性期医療と慢 性期医療。業態としては、 @救急救命、治療業、A病状の現状維持または回復ノーマライゼーション業、社会復帰業。 医と予防業種としてはドック検診業。業態としては病気にさせない安全コンサルタント業。
医と健康 業種としては有酸素運動など THP施設。業態としては医+食+運 動十精神修養を含めた健康増進業。
医と幸せ 業種としては産科や美容成形。業態としては乳幼児の創造力育成と母親教育、芙しい人生づくりへの関与、老人デイケアにおける楽しい旅行、ショッピング、趣味育成等。

以上のように、医の安心を中心に据えて、自院単独でなく他の優れた民間企業とどう組むかが成功のポイントとなる。民間企業では異業種同士が提携や共同出資することが今日では当たり前になっているが、医療機関はこれからである。
MS法人が病院の節税対策や一族のための利益の吸い上げの時代は終わり、本来の関連企業として上記業態に進出し、病院経営に相乗効果をもたらすことを考えるべきであろう。
                              (1999年7月号掲載)